「痛てて…。 むぅ…逃げられたか…」
「シンくんがオッパイで遊んでるからでしょ!」
うぐ、面目ない。
俺とアマメがくんずほぐれつをしている間に、アーヴェルは墓地の奥へと走り去ってしまったのだ。
なるほど、この逃げ足がヤツの得意技というわけか。

「さぁ、早く追いかけるわよ!」
「焦らなくても大丈夫ですよ。
ここは罠だらけの遺跡の中ですし、盗賊さんもそう簡単には進めないと思いますよ」
「そ、それもそうね。 慌てて追いかけて罠にハマったら、元も子もないわね」
不幸中の幸いだ。 遺跡の罠は恐ろしいものだが、それは俺たちにだけではなく、あの盗賊にも同じことだ。
ヤツが罠の解除に手間取っている間に追いつけばいい。
焦らず、慎重に進もう。
遺跡内をしばらく進むと、天井の高い空間に出た。
左右の壁には穴が開いており、布でくるまれた遺体が寝かされている。
どうやら、ここは古代ノルド人の遺体が安置されている場所のようだ。
「墓場らしくなってきたな…」
「何だか嫌な予感がするわ…。 仕組みはよくわからないけど、こういう墓地は遺体が動き出すって話よ」
そういえば、どこかの学者が古代ノルド墓地の調査をした話を聞いたことがある。
スカイリムに点在するこのような古い墓地では、
安置された遺体が墓守をしているのだとか…
「ちょ、ちょっと気味が悪いですね。 遺体が動くだなんて…」
沙が少しだけ怖がる。 確かに、動く遺体なんてホラーそのものだ。 いい気分ではない。
「確かにね。 でも、干からびた死体が動くってだけなら、まだマシだと思うよ。
『目に見えない』とか『音もなく忍び寄ってくる』みたいな得体の知れないものじゃないし、対処はいくらでもできるだろ?
沙の破壊魔法なら、あんなヒモノくらいどうとでもなるさ」
「プっ! ヒモノってw シンくん、うまいこと言うわね」
とはいえ、注意は必要だ。 ここでは一瞬の油断が命取りになりかねない。
俺は周囲への警戒を強め、ゆっくりと進み始めた。

…ォラーン「!? 今、何か聞こえませんでした?」
奇妙な音が耳に入り、俺たちは一斉に周囲を警戒する。
低く響くような音…いや、これは声か?
…ヴォラーン!「ウワサをすれば…だな」
どうやら、墓守たちのお目覚めらしい。
壁の穴に安置されていた遺体が次々と起き上がり始めた。
ドラウグルだ!
ドラウグルたちは武器を手に、ゆっくりと俺たちの周りを取り囲んだ。
睨みあいの中、ドラウグルの一人が何やら声を発する。
「ダニーク・ケンドヴ! 」これは…言葉か? 聞いたことのない言語だ。
「…このドラウグル、しゃべってる?」
「ああ、そうみたいだ。 言葉が通じるなら、話し合いで解決っていうわけにはいかないかなぁ?」
「そういう雰囲気ではなさそうね。 さっき『ヒモノ』って言ったの、怒ってるんじゃない?」
冗談はさておき、彼らにとって俺たちはただの墓荒らし。
戦闘の意思はなくとも、許してはくれないだろう。
すでに前後を挟まれた状態だし、逃がしてくれる気もないようだ。
「ディル・ヴォラーン!」掛け声のような一声に合わせ、ドラウグルたちは一斉に襲い掛かってきた!
ズガッ!!激しい衝突音がした。 アマメの戦斧だ。
体中を霜だらけにされたドラウグルが、重い一撃に吹き飛ばされる。
振りの遅い戦斧だが、氷雪魔法を受けて動きが鈍くなった敵など、丸太を割るようなものだ。
メルラちゃんは武器にピッケルを使うという珍しい戦い方だが、一切の反撃を許さないほどの手数で相手を圧倒している。
「メルラ! 避けて!!」
沙の声に反応して、メルラちゃんが身をかわす。 直後に、沙のアイススパイクがドラウグルの胸を貫いた。
メルラちゃんの手数で体勢を崩し、そこへ沙の強力な魔法を見舞う。 見事な連携だ。
ザンッ!「よし、コイツで最後だ」
ドラウグルの最後の一体を切り伏せた。
一人で来ていたら今頃はピンチを迎えていたのだろうが、彼女たちのおかげで探索は順調に進んでいる。
この分なら、中央の間へはそれほど苦はなくたどり着けそうだ。
「待って! 何か様子がおかしいわ!」沙の声に、剣を納めようとした手を止める。
慌てて再び剣を抜き、倒れたドラウグルを確認した。
何だ? 何が起きている?
「…アーヴ・ディロン! 」
「うそ!? 復活した!?」なんと、倒したと思っていたドラウグルが、次々と立ち上がり始めた。
こいつら、不死身なのか…?
「このままじゃキリがないですね…何とか倒す方法はないんでしょうか?」
倒す方法…。 そうだ、きっと何か手があるはず。
よく見れば、切り落された腕などはそのままになっている。 動くというだけで、こいつらが死体であることに変わりは無い。
何か…何かあるはずだ…!!
「…!! (復活してないヤツがいる!)」

辺りを見回すと、ドラウグルは全員が立ち上がったわけではなかった。
何体かのドラウグルは、立ち上がることなく崩れ落ちたままだ。
「…こいつらの弱点は…魔法か?」
「どういうことですか? シンさん?」
よく見ると、倒れたままのドラウグルには共通点があった。
俺のファイアボルトで黒こげになったヤツと、沙の氷雪魔法で完全に氷漬けになったヤツは、復活していないのだ。
「なるほどね。 仕組みがわかったわ。
あいつらは、
死体に魂を充填しているのよ。 ちょうど武器に符呪をするみたいにね」
そういうことか。 それなら、体が破壊されても魂が残っている限り、いくらでも復活できる。
でも、充填した魂がなくなってしまえば体が無事でも動けなくなる、というわけだ。
魔法で倒せるのは、外からマジカの影響を受けると充填された魂が正常に機能しなくなるのだろう。
「試してみよう。 俺と沙の魔法でトドメを刺す。 メルラちゃんとアマメは、援護を頼む!」
「グォ…!」俺の読みは正しかったようだ。 魔法攻撃で倒れたドラウグルは、復活することはなかった。
「ふう、何とか撃退できたね。 古代ノルドは怖い魔法を使ったんだなぁ…」
「シンくんと沙の魔法がなかったら、危なかったわね」
古代ノルド式の死霊術といったところか…。
こんな形で不死になるなど、『死を奪われる』のと同じだ。 死霊術も使い方次第ではあるが、なんとも恐ろしい魔法だ。
「でも、思ったより時間がかかってしまいましたね。 あの盗賊、どこまで行ったのかしら?」
「そろそろ追いついてもいい頃…
って、待って。 あそこに倒れているのって…」
メルラちゃんの指差した先には、血に塗れたアーヴェルが倒れていた。

「ダメだ。 もう死んでる」
「あの通路を通ろうとして、罠にかかったんですね」
アーヴェルが倒れている場所の少し先に、狭い通路があった。
だが、その通路の中では、半月状の大きな刃が振り子のように揺れている。
おそらくアーヴェルはこの刃をまともに受けて、ここまで吹き飛ばされたのだろう。
お宝に目がくらみ、罠への警戒を怠った結果だ。
「あっけない死に方ね。 コソ泥の運命なんて、こんなものでしょうけど」
「まぁ、おかげで俺たちは罠にかからずに済んだけどね。
…さて、金の爪はまだ持っているかな?」

「わぁ…すごい! こんなに大きな純金の品物、初めて見ました!」
「雑貨屋のご主人も喜びますね。
あとはドラゴンストーンを手に入れるだけですよ!」
これで二つの目的のうち、一つは達成だ。
それに、金の爪を持ってこのまま遺跡の探索を続ければ、アーヴェルが探していたお宝も手に入るはずだ。
ついでに、ドラゴンと金の爪にどんな関係があるのかが、わかるといいのだが。
「…お? これはアーヴェルの日記だな。 何か手がかりが書いていないかな?」
『あとは物語の広間へ行き、扉を開けるだけだ。
伝説によると、卑しい者を近づけぬよう、ノルドはある試練を組み込んだらしい。
だが、心配ない。 なぜなら、「金の爪を手にすれば、答えは手の平にある」からだ。』どうやら、この爪は扉を開けるカギになるようだ。
だが、そのカギのかかった扉には、『試練』が組み込まれているという。
これまでの罠の数々から想像すると、洒落にならないものであることは間違いないだろう。
「『答えは手の平にある』って、どういう意味ですかね?」
「う~ん…今の段階では、何とも言えないなぁ」
『答えは手の平に』。 この墓地に眠るお宝にはたどり着くには、この謎を解かなければならない。

「ところで、この通路はどうします?」
「通路の向こうにレバーが見えるわ。 あれを引けば、振り子を止められるんじゃないかしら。
やりたくはないけど、誰か一人が潜り抜けて、レバーを引くしかないわね」
アーヴェルの死の原因となった振り子刃の罠。
振り子の動きに合わせて前に出れば、刃を潜り抜けることはできる。
また、3つの刃の間には人一人が立てる程度のスペースがあり、一気に走り抜けずとも、少しずつ進むことが可能だ。
だが、そのタイミングはかなり厳しい。 一瞬でもタイミングがずれれば、アーヴェルの後を追うことになる。
「そうだ! いい魔法がある。 俺に任せてもらっていいかな?」
「魔法? 大丈夫なんですか?」
少々不安はあるが、この方法がベストだろう。
問題は勢いがつきすぎて、向こう側の壁に激突するかもしれない、ということだが…。
「よし、いくぞ。 『鎖の道』!!』
具現化されたマジカの鎖が、一瞬で振り子の向こう側の壁に突き刺さる。
そのまま鎖は一気に縮み、俺の体を通路の向こうまで引きよせた!
ズザァッ!勢いがつきすぎ、少し体勢を崩す。
だが、俺の体は刃の切っ先にすら触れることなく、無事に通路を抜けることに成功した!
「罠解除…っと。 これでよし!」
メルラちゃんの予想通り、レバーを引くと振り子は止まった。 これで安全に通路を抜けられる。
「面白い魔法ですね! 変性魔法なんですか?」
「ああ、今のヤツはね。 これ以外にも鎖に触れた相手を引き寄せる破壊魔法もあるよ」
特殊な魔法なだけに使いどころを悩んでいたが、覚えておいてよかった。
やはり、魔法は使いようだな。

ボンッ!ファイアボルトの直撃を受け、ドラウグルが崩れ落ちた。
俺は第二撃の準備をしつつ倒れたドラウグルを観察して、復活しないか確認する。
「…大丈夫みたいだな。 先に進もう」
先ほどの戦闘で気が付いたのだが、ドラウグルたちはある程度の距離まで近付かなければ、動かないままなのだ。
攻撃が命中すれば遠くの敵にも反応するようだが、距離があるうちなら第二撃で仕留められる。
一体ずつ相手にできる状況であれば、この調子で確実に仕留めていけるはずだ。

「シンくん、ちょっと待って。 床が油まみれになってるわ」
メルラちゃんに言われて床に注目すると、床が虹色に光っているのが見えた。
天井に吊るされたランプから、油が零れ落ちたのだろうか?
火器の真下に油とは、火の管理としてはなかなか雑な管理である。 火事になったらどうするのか。
「油? …あ、そうだ。 いいこと思いついた!」「ん? 何をするの?」
床の油、天井から吊るされたランプ、そしてこの距離。
上手くいけば、やつらを一網打尽にできるぞ。
「来い! 俺はこっちだぞ!」ファイアボルトを連続で放ちながら、ドラウグルを挑発する。
炸裂音が聞こえたのか、釣られたドラウグルたちが次々と通路の奥から集まってきた。
「クレン・ソザール! 」ドラウグルは軽く焦げた体で何度も立ち上がってくる。
だが、すぐには立ち上がれないので、ダウン復帰からの時間差によって、だんだんと一箇所に固まっていった。
油まみれの床に集まるドラウグル。
さて、そろそろ頃合だ。

「…よし、これで仕上げだ!」
ドラウグルたちが一塊になったのを見計らい、俺は天井に吊るされたランプ目掛けてファイアボルトを放った。
火球が命中したランプが弾けて、油まみれの床に炎を撒き散らす。
ゴゥッ!!
爆発的に燃え広がった炎が、一気にドラウグルたちを飲み込む。
強力な火勢は干からびた体をあっという間に焼き尽くし、集まっていたドラウグルを一瞬で黒コゲにした。
「よし、上手くいった!」
「一網打尽ね! これだけ焼かれたら、さすがに復活できないわね」
ようやく、ドラウグルとの戦いに慣れてきた。
中央の間はまだまだ先だが、焦らずに進めばきっと大丈夫だ。
俺たちは、遺跡のさらに奥深くへと入っていった。

次回予告
第18話 墓地深部! 答えは手の平にあり。
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テーマ:Skyrim - ジャンル:ゲーム
- 2015/12/04(金) 06:59:54|
- スカイリムRP シン
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| コメント:6
>隠密100の放浪者さん
お察しの通り、アンデッドが復活するMOD「Truly Undead - Reborn」を入れています。
このMODを入れると、対策なしでは何度倒しても甦るので、緊張感があって面白いですね!
実は、「ドーンガードになろうかな?」の話は、このMODを導入することを前提に考えて持ち出しました。
「死なない吸血鬼」となると、その脅威はいつもの吸血鬼とは比べ物にならないと思います。
どうせやるなら「世界がヤベぇ事件」にしたかったので、無茶をしてみましたw
ドーンガード編は、激戦は必至ですね。…い、生き残れるだろうか?(゚A゚;)
知略派らしく、魔法選びの優先度は「バリエーションを増やすこと」にしています。
もちろん、召喚魔法も修得していますよ!
この召喚魔法はある場所で
重要な役割を果たすので、注目していただきたいです。
乞うご期待!∑d(`・ω・´)+
ううむ、死霊術も使い方次第ですが…しばらくは自粛させていただきますね。
いずれ、セラーナさん辺りに教わるのだろうか…ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿
- 2015/12/05(土) 14:05:34 |
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