「おー、良い景色だなー!」
そびえ立つ切り立った岩山の間を縫って流れる
カース川。荒々しくも美しい、リーチの風景を眺めながら、俺たちはソリーヌ・シュラルドを追っていた。
情報によれば、彼女はドラゴン・ブリッジを出た後、このカース川の上流方向へと向かっていったという。
「今は…ここだな。 南に向かって伸びているのが、カース川の本流だ」
「んじゃ、あっちだな。 あの滝がある丘の向こう側に、遺跡があるんよ。
ドゥーマーヲタクが向かうとしたら、多分そこだ」
フロッグの言う遺跡とは、
『ディープ・フォーク・クロッシング』と呼ばれるドゥーマーの遺跡らしい。
方角から推測すると、彼女はこの遺跡目指している可能性が高いのだ。

「それにしても、リーチはヤバいところだな…。
この雄大な景色を楽しむ余裕はなさそうだ」
「あのヒャッハー集団、とにかく懲りない連中だからなー。
あの執念は、ある意味ノルドの頑固さよりメンドクサイじぇ」
実は、俺たちはここに辿り着くまでに、何度もトラブルに遭ったのだ。
その結果、ドラゴン・ブリッジを出てから、既に丸一日が過ぎていた。
ファルマーとの戦いを終えた俺たちは、ドラゴン・ブリッジに辿り着いた。
ソリチュードに街道の状況を伝えるため、この村に滞在する帝国軍を訪ねるためだ。
あの街道は
ハイヤルマーチの端にあるなどの地理的条件の悪さが祟り、警備が疎かになりやすかった。
しかし、先日のドラゴン騒ぎをきっかけに街道の安全性への不安を懸念する声が高まっていたのだ。
これを受けてソリチュード、モーサル、ホワイトランの間で協議が行われ、警備体制を見直すことが決まった。
そして、そのための実地調査をリュシアンが引き受けたのそうだ。
「調査を手伝ってくれて、本当にありがとう。
この任務、私だけではどうにもならなかっただろう…感謝している!」
「こっちこそ、何度も助けてくれて、ありがとな!」俺とリュシアンは、がしっと握手をかわした。
「ロリクステッドに来たときは、また会いに来てね~! 特製の
キノコスープをご馳走するから~!!」
「そいつは楽しみだ~! 必ず行くよ~!」
「ワォーンッ!」
「じゃーなー! 夫婦仲良くやれよー!」
「んおッ!? …も、もちろんそのつもりだ~ッ!」
こうして、俺とフロッグはハイエルフの夫婦と別れ、リーチの山中へ入っていったのだった。
後で知ったことだが、あの二人は正式に結婚をしたわけではないのだそうだ。
もっとも、そんなこととは関係なく、二人の仲が夫婦のそれ以上であることは間違いないだろう。
いつか俺も、あんな風に愛し合える相手ができるのかな…?

山道を歩いていくと、オオカミや熊に何度も遭遇した。
この道はほとんど人の往来がなく、街道というより獣道であった。
「うぉっ!? 危ねっ!!」
「大丈夫かフロッグ!?」
「ダイジョーブ! こんくらいっ!」
獣の襲撃それ自体は大したことはなく、俺たち二人はケガ一つなくやり過ごすことができていた。
だが、襲撃が頻繁にあったため、かなりの時間がかかってしまったのだ。

面倒ごとはそれだけではなかった。
俺たちは、滝となって流れ落ちるカース川の川沿いを歩いていた。
だがそこで、何やら山賊の砦のような場所へ入ってしまったのだ。
なんと、そこはリーチ地方で血生臭い事件を起こして回る、
フォースウォーンの集落だった!
「リーチを再び我らの手にッ!!!」「お、おい待て! 俺たちはただの通りすがりだ!」
「死ねッ!!」
毛皮を纏った男から突然矢を浴びせられ、俺は慌てて敵意がないことを告げた。
だが彼は、そんなことはお構いなしと言わんばかりに次々と矢を放ってきたのだ。
「言っても無駄だぜシン! こいつら、こういう奴らなんよ!!」
「クッ…!」
フォースウォーンとはリーチの先住民であるリーチメンのうち、他の支配に対して反発し続けている集団である。
彼らは近付く者を見境なく攻撃することで知られ、リーチにおける大きな社会問題となっていた。
故郷を追われた怒りと悲しみは理解できるが…それが人を傷つけて良い理由にはならない。
気は進まなかったが…俺には彼を討つことしかできなかった。
「…何で、わかりあおうとしないんだろうな」
「そう簡単にいくもんじゃないサ。 あんまり気にすんなよ?」
「ああ、わかってるよ…」

「はー…いないなー…」
「ドラゴン・ブリッジを出て、もう丸2日経ってるのか…」
険しい山道と、相次ぐ道中のトラブルで、とうとう3日目の朝を迎えていた。
かなり山奥まで歩いてきたが、未だにソリーヌ・シュラルドの姿は見えない。
あまりに時間をかけすぎたため、彼女はすでに別の場所へ行ってしまったのだろうか…?
「ん? なんだあれ?」
「…んお? マッドクラブ? …死んでる?」
朝焼けが空を赤く染める中、川沿いにマッドクラブの死体が転がっていた。
その様子からして、獣の類にやられたわけではなさそうだ。
「まだ新しいな。 それにこれ…」
「
クロスボウのボルト! ってことは…?」
「ああ、近くにいるかも知れんね!」
真新しいマッドクラブの死体に、クロスボウのボルト。
こんなところに、こんなものを残す人物がいるとすれば…彼女しかいない!

「もう…! 一体どこにいったのかしら…!?
あれがないと、研究が終わらないわ!」
マッドクラブの死体を見つけてから数分。 リーチの山中で、一人佇む女性を見つけた。
きっと、彼女がソリーヌ・シュラルドに違いない!
「もう一度、近くを探して…あら? どちら様?」
俺たちの姿に気付き、彼女が声をかけてきた。
「探したよ。 あんたがソリーヌ・シュラルドだね?」
「そうだけど…あなたは?」
「俺はシン。 こっちはフロッグ。
イスランに頼まれて、あんたを探しに来たんだ」
「イスランが!? そう…ドーンガード再編のうわさは本当だったのね」

「それで? 彼が私に何の用なの?」
イスランの名前を出した途端、彼女の表情が少し険しくなった。
予想通りの反応だ。 だが、その上で納得してもらわない限り、彼女を味方に引き入れるのは不可能だろう。
「何かの間違いなんじゃない? 彼には、『お前の手助けは必要ない』って、ハッキリ言われたもの。
…ひどく傷つくようなこともね」
「イスランと仲違いしたってことは知ってる。
でも、今は本当に危機的な状況なんだ。 どうしても、あんたの力が必要なんだよ!」
「そう言われてもねぇ…」
「無理を承知で頼む! ドーンガードに、協力してくれないか!?」「う~ん…」
俺は真剣な気持ちを、正直に彼女にぶつけた。
彼女もそれを察してくれたのか、それまでの険しい表情がわずかだが緩んだ。
「…あなたたちが切羽詰まっているのはわかったわ。
でも、何がどう危機的なのか、ちゃんと説明してくれるかしら?」
「吸血鬼、それもあの
ヴォルキハル一族が、スカイリム全土を脅かす何かを企んでいる!」
「何ですって? 本当なの!?」
ヴォルキハル一族の名前を聞いた彼女は、今度は目を見開いて話に食いついてきた。
説得を続けた結果、彼女が今行っている研究が終わり次第、協力してくれることを約束してもらえた。

「わかったわ。 ただ、協力はしてあげるけど…ここでの研究を放りだすわけにはいかないの。
あと1個、
ドゥーマーのジャイロがあれば終わらせることができるのだけど…」
「足りないのか? それはどこへ行けば手に入るんだ?」
「ついさっきまで、たくさん手持ちがあったのよ。
ところが、ジャイロを入れた
鞄がなくなってしまって…。 確かに、ここに置いたのに…」
「
マッドクラブに取られたんかなー? その川にいるみたいだから、岸にあがって盗んでいったとか」
「そうかもしれないわ。 ちょっと、辺りを見てきてくれない?
私はあっちを探すわ」
「マッドクラブがそんなもの盗んだりするのか?」
「さーなー…なんとなく、そう思っただけ」
「おい、マジか…」
フロッグの思いつきで始まった、ジャイロの探索。
確かにこの川にはマッドクラブがいるが、食料が入っているわけでもない鞄などを、盗んだりするだろうか?
だが、別段手がかりがあるわけでもない以上、周囲を探してみるくらいしかできなかった。
「ゲ…あっちに見えるの、
フォースウォーンの集落じゃね?」
「うわ…多分そうだな。 昨日見た集落と同じだし…。
これ以上近付くとヤバそうだ。 …あっちを探そう!」
事実上、『この辺りのどこか』という手がかりしかない状態。
探索はまさに手探りで、ジャイロの入った鞄は一向に見つからなかった。
時間だけが過ぎ、気付けば夕暮れが近づいていた。

「…シンッ! あれ!!」
「何!? あったのか!?」川岸を入念に探っていると、フロッグが岩陰に何かがあることに気が付いた。
…
鞄だ!
あれはきっと、ソリーヌの鞄に違いない!
「やったじぇ! こんなところにあった…むぐ!?」
鞄の発見を喜ぶフロッグが歓声をあげようとしたその口を、俺の手が塞いだ。
水中からぬぅっと現れた影…
マッドクラブだ!
どうやら、鞄はマッドクラブが盗んだわけではなく、ただの置忘れだったようだ。
だが、たまたま現れたマッドクラブは、鞄をしきりに気にしていた。
「(マズイじぇ…川の中に持って行かれたら…!)」
マッドクラブを刺激すると、鞄を水中に引き込まれてしまうかもしれない。
この川は流れが速いので、そうなったらもはや探しようがなくなってしまう。
幸い、マッドクラブは俺たちの気配に気づいていないようだ。
だが、この距離ではみつかるのも時間の問題。 何とかしかければ…!
「(どうする? 剣で切りかかるには距離があり過ぎるし、弓かクロスボウで射抜くか?
いや、武器ではダメだ…音を立てたら、気付かれてしまう!)」
この状況では、武器は使用できない。 武器ではダメだ。
だが、武器がダメなら…答えはひとつしかない。
魔法だ! 精神を集中し、無音で魔法を発動させれば…!
ゆっくりと、深く息を吸う。
そして、息を吐きながら、マジカを左手に集中した。
「(今の俺に…できるだろうか…?
いや、やる! 絶対に成功させてやる!)」
フロッグが見守る中、俺は心静かに全身のマジカを感じていた。
通常、マジカが集中すると、周囲の気流を乱す音が出る。
だが、深く静かに意識を集中することで、その乱れを起こすことなくマジカを集中することができるのだ。
これが
『無音の唱え』と呼ばれる、幻惑魔法における高等技術である。
「(落ち着け…
『精神こそが、最大の武器』だ…!)」

……
………………
……………………「…今だッ!」
ドンッ!!
「キュィっ!?」圧縮された空気の弾丸が、マッドクラブの体を貫いた!
俺が放った風の魔法は、射出する瞬間まで一切の音を立てなかった。
「…やった! できた!!」
「すげー! 全く音がしなかったじぇ! やるじゃんかー!」ぶっつけ本番だったが、どうにかモノにできたようだ。
俺の魔術も随分と成長したということか。
「…よし、あったぞ! ドゥーマーのジャイロだ!」
「よっしゃ! これでドゥーマーの遺跡に潜らなくて済むなー!」
鞄の中にはいくつかのジャイロが入っていた。
どれも酷い傷などは見られず、問題なく使えそうだ。
もしこれを取り戻すことができなかったら、今ごろ代わりのジャイロを探しにいくハメになっていただろう。
ともあれ、これでソリーヌも納得してくれるはずだ。

「ありがとう! 今の研究にこれがどうしても必要だったのよ!」
ジャイロが見つかり、大喜びするソリーヌ。
鞄を川岸に置いた覚えはないか問いただしてみると、「そういえば…置いたわ」と、今更になって思い出したのだった。
「よーし、茹で上がったじぇ~! アチチッ!」先ほど倒したマッドクラブで、フロッグが夕食の
カニ鍋を作ってくれた。
焚火を囲みながら、俺たちは一晩をこの場所で過ごした。
「どうぞ。 熱いから気をつけてくれ」
「ありがとう。
…イスランに頼まれてって聞いた時はどうしようかと思ったけど…探しに来てくれたのが、あなたで良かったわ」
「ん? どうしてだ?」
「何というか…あなたの言葉は、本当に誠実だったわ。
本気で、迫りくる脅威から誰かを守ろうって…そう思っているのね。
そんなあなたに頼まれたから、イスランともやり直してみようって思えたのよ」
俺の真剣な想いが、彼女の心にちゃんと届いたようだ。 正直に全部を話して良かった…!
「これからよろしく。 ソリーヌ!」
「こちらこそ。 シン!」カニの出汁が利いた温かいスープを飲む。
温まっていく体とともに、俺たちの間に信頼が芽生えたのだった。

「それじゃあね。 ドーンガード砦で会いましょう!」
「ああ!」俺たちはドーンガード砦での再会を約束し、硬く握手を交わした。
ソリーヌはまとめた荷物を背負うと、ニッコリ笑って、リーチの山中へと消えていった。
「…よしッ! これで任務の一つは完了だな!」
「ああ、ありがとうな、フロッグ!
お前がいなけりゃ、こうはいかなかったよ」
「ふへへへ…もっと褒めてもいいじぇ~?」
こうして俺たちは、ソリーヌを仲間に引き入れることに成功した。
残るは、もう一人の探し人
『ガンマー』を見つけるだけだ。

だが、ガンマーの捜索を前に、まさかあんな大事件が起きるとは…!
この時、俺は全く予想していなかった。
次回予告
第22話 集結! 竜の血、その継承者たち。
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テーマ:Skyrim - ジャンル:ゲーム
- 2016/08/01(月) 21:00:58|
- スカイリムRP シン
-
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| コメント:3
なるほど、「リバーウッド・トレーダー」の盗難品と窃盗犯が居たあそこから
(某鍛冶ートいわく)「ドラゴンのお悔やみ情報」が書かれた石盤を
墓泥棒ぅゲフンゲフン、盗掘ウォッホン、もといリュックに突っ込んで運ぶだけのお仕事ですね
そしてインターバルにも出演したあの2人と合流する流れかな?
あのクエストとセプティマスのは、メインクエストの内容と被るから
依頼人(^ω^ ) 「困難な仕事だろうが、君なら成し遂げられると信じているよ」
隠密浪( ゚Д゚)…(会話終了直後にクエストメッセージが次々と更新されていく)
隠密浪( ゚Д゚ )…「それ、もう持っているんですが」
という気まずい状況を想像してしまったwww
実を言うと、初見で地図埋めしている最中にセプティマスを発見してクエストを受けたため、
金の爪より先に星霜の書を手に入れてしまった思い出ががが。
(隠密ナレフ)
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『おれはメインそっちのけで楽しもうと思ったら いつのまにか星霜の書を探せというクエストが追加された。』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが おれも何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
バグだとかチートだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
それでは、"Shadow hide you."
- 2016/08/02(火) 22:31:04 |
- URL |
- 隠密100の放浪者 #dvQckJnQ
- [ 編集 ]
実は、「Not So Fast - Main Quest」というメインクエストの進行を遅延させるMODを導入しておりまして…。
石板渡す→
奴がくる!の流れに遅延が起き、石板を渡してから数日後、ファレンガーさんを訪ねることで、西の監視塔に奴が来るんです。(・ω・`;)
冒険に出てからかれこれ一年。
そしてドラゴンオタクなファレンガーさんから依頼を受けて、半年以上。
一向に進まないメインクエスト、そしてとんでもない時期やタイミングにクエストが発生してしまう事件は、もはやスカイリムの名物ですね!( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
と、いうわけで、ついにシンくんも「ヤツ」と出会う時がやってきました。
そしてそれは同時に、彼の内に秘められた力と運命を解放するきっかけとなります。
もっとも、その力の根源は本来のそれとはまったく異なるものなのですが…それはまた別のお話し。
次回はインターバルに登場した彼女とその従者、そしてまだ顔を出していないけど存在が語られているあの男が、ついに登場!
二人との出会いは、また一つシンくんを成長させることでしょう。
そしてもう一人。
リバーウッドでシンくんを見守っていたあの女性もまた、動き出します。
急展開で新展開な次回。 ぜひ注目してください!∑d(`・ω・´)+
- 2016/08/03(水) 02:30:35 |
- URL |
- シン #JalddpaA
- [ 編集 ]