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The stray sorcerer -はぐれ魔術師冒険記-

第23話 覚醒! 竜の魂、伝説のドラゴンボーン。

「うおぉぉぉっ! 当たれぇぇぇッ!!!」

衛兵たちが一斉に矢を放つ。
しかし、凄まじい速度で空を舞うドラゴンには、狙いを定めるのすら難しい。
よく訓練された衛兵たちでも、数本の矢を命中させるのがやっとだ。
だがそれらも、凄まじい飛行速度と分厚い鱗に阻まれ、体に突き刺さることはなかった。

「クソ! 何本かは当たったが…全部弾かれちまってる!!」
「なんて分厚い鱗だ!」

そう、ドラゴンの全身を包む鱗である。
鋼鉄の鎧のように頑丈で、革の鎧のように柔軟な鱗で全身を覆うドラゴンは、とんでもない防御力を持っていたのだ。

01衛兵たち

矢の嵐をやり過ごしたドラゴンは、塔の上空で旋回したかと思うと、一気にこちらへ向かってきた!
衛兵たちが一斉に緊急退避する。

「!! く、くるぞ!? 逃げろーッ!!」

ズドォォォンッ!!!!

「うわっ!?」

ドラゴンが着地した瞬間、衝撃と爆風で土煙が上がった。
一瞬の静けさの後、目の前を覆う土煙が風で流されると、そこに鱗を夕日で赤く染めた、ドラゴンがいた…!












「ほう…同胞の気配を感じたかと思えば…。
 勇敢だな、小さきドヴァーたちよ。 定命の身で、このミルムルニルに挑むか…」

「!? しゃべった!?
 今、ドラゴンがしゃべったのか?」
「言葉を…? ドラゴンは、私たちと同じように会話ができるというの…!?」
「我らは全ての頂点を自負する種族だ。 この程度、造作もなき事。
 しばらく見ぬうちに、我らの力を忘れたか?」


…驚いた。
ドラゴンは、ただの巨大な獣などではなかったのだ。
俺たちと同じ言葉で会話ができる時点で、少なくとも、巨人やファルマーより高い知性があると言える。

しかもコイツは、自身の名前を名乗った。
つまり、自と他を名前で区別し、認識する文化を持っているということだ。

「よかろう。 お互い、久しぶりの戦いだ。
 真のドヴァーの力、その身をもって思い出すがいい!」


ブワァッ!!!

ミルムルニルと名乗ったドラゴンが、空を覆わんばかりの大きな翼を広げた。
次の瞬間、強烈な風が巻き起こり、目の前にいたはずのミルムルニルの姿が消えていた。

「グオォォォォオオオッ!!!!」

「従士様! 上です!」
「あの一瞬で、あんな高さに…なんて力強い翼なの…?」

アイラちゃんの声で全員が空を見上げると、そこには再び大空を舞うミルムルニルがいた。
これがドラゴン!
何という…圧倒的な存在だろうか…!!


その場の全員が、同じことを考えていた。

「(…勝てるのか? こんな怪物に…!!?)」

02ミルムルニル

「落ち着け! 皆、もう一度矢を放つんだ!」

ドラゴンの強さに呑まれそうな俺たちに、シャールさんが喝を入れる。

「ただ狙うだけではダメだ! ヤツが『こっちへ向かっているとき』を狙って矢を放て!
 それなら、きっとあの鱗を撃ち抜けるはずだ!!」
「…!! いい作戦ね。 衛兵! もう一度やるわよ!」
「よ、よしッ!」

シャールさんの指示を受けて、衛兵たちが再び矢を構える。
なるほど、ドラゴンが突進してくる力を利用するわけか!
ドラゴンが進んでいる方向を狙って矢を放っても、矢尻の切っ先が触れた途端、矢が横に滑ってしまう。
しかし、正面に向かい合って放てば、矢の勢いにドラゴン自身の勢いとが合わさり、強烈な貫通力を生み出すはずだ。

「全員、構えっ! ……撃てーッ!!!」

イリレスさんの号令で、衛兵たちが再び矢を放つ。
放たれた矢は、こちらへ向かってくるドラゴンに向けて、一気に向かっていった!

ヒュヒュヒュヒュッ…

「!? グオォッ!?」

空中のミルムルニルが僅かに怯んだ!
よく見ると、体の数か所に矢が刺さっている!! やった!作戦は成功だ!

「見たわね! 私たちの武器でも、ヤツを傷つけることはできるのよ!
 …勝機はあるわ!!」

03勝機はある

「勝利か、ソブンガルデだッ!!」
「今日がお前の最期だ! ドラゴン!」

勝機を見出し、衛兵たちは奮い立った。
鉄壁の防御を破られたミルムルニルは何とか矢を回避しているが、それでも少しづつ体に刺さる矢は増えていく。
だが、その眼からは、己の強さへの自信は全く失われていなかった。

「やるな、定命の者たちよ。 小さきドヴァーですらないお前たちが、我が鱗に傷をつけるとは!
 だが…我が力はこんなものではない!」


その巨体を翻し、ミルムルニルがこれまでと少し違った動作を見せる。
何だ? 何をする気だ!?

「ヨル…トール…シュルッ!!」

ゴォォォォォウッ!!!!

「うわあぁぁぁーっ!?」

ドラゴンの咆哮にも似た叫びと共に、紅蓮の炎が周囲を包み込んだ!
炎はあっという間に瓦礫や地面を真っ黒に焼き焦がしていく。

数人の衛兵が炎に巻かれ、苦しみにもだえて地面を転がった。
仲間の救助で何とか消火されたが…火傷が酷い。 あの体では、戦闘は不可能だ。 

「今のは…ファイアブレスのシャウトか!!」
「シャウト? なんだそれ!?」
「声を発することで発動する魔法のようなものです。
 元々、ドラゴンが使う秘術だったと聞いていましたが…どうやら、本当のようですね…!」 

シャウト!
そうか、これが叫び声とともに魔法を放つ攻撃の正体!!
遺跡で戦ったドラウグルは、これを使っていたんだ!

04シャウト

「あの巨体と力に加えて、魔法も使えるってのか…!? 洒落にならないな…!」
「そうですね…! でも、俺たちにだって、奥の手はありますよ!」

そういうと、シャールさんはミルムルニルに真っすぐ突っ込んでいった!

「シャウトを使えるのは…ドラゴンだけじゃない!
 ヨル…トール…シュルッ!!

シャールさんが叫び声を上げると、ミルムルニルに負けないほどの力強い炎が巻き起こった!
これは…ファイアブレスのシャウト!?
驚いた! 怪物たちの専売特許だと思っていたあの力は、人間にも使えるものだったのだ!

ミルムルニルのシャウトとシャールさんのシャウトが激突し、互いの炎が大気に消えていく。

「ムゥッ!? 我と同等のスゥームを放つとは!
 小さきドヴァーよ、お前と戦えること、誇りに思うぞ!」

「そいつは光栄だ。 でも、勝つのは俺たちだ!!」











「私たちの力だって、まだまだこんなものじゃありませんよ」 
「そうよ! 従士様は強いんだから!」

続いて、後方に控えていた度葉琴さんが前に躍り出る。
軽やかなステップで崩れた石壁から飛び上がると、空中で体勢を入れ替えながらシャウトを放った!

「フォ…コラー…ディーン!」

ゴォォォォォォッ!!

今度は猛烈な冷気!
これは…あの時見た、冷気のシャウトだ!

「グオォッ!? 氷のスゥームだと!?」

ドラゴンの動きを読みつつ放たれた氷の嵐は、ゆっくりとした勢いながら、ドラゴンの体を確実に捉えた!
フロストブレスの直撃を受けたミルムルニルが大きく怯む。

「どうやらヤツの弱点は氷の魔法のようですね…!」
「よし…! それならッ!!」

作戦は決まった。
衛兵たちとシャールさん、アイラちゃんとでドラゴンの動きを封じ、度葉琴さんのフロストブレス、俺の氷の破壊魔法を叩き込む!
これなら、ヤツに勝てる!!

「おいで! 雷の精霊!!」

アイラちゃんは、精霊の中でも上位の存在である雷の精霊を召喚する。
後で知ったことだが、彼女は優秀な召喚士であり、度葉琴さんのサポート役としてもっとも適任とされ、従者に選ばれたのだそうだ。

「衛兵! 一発でも多く矢を当てなさい!!
 あの育ちすぎのトカゲを、地面に叩き落すのよ!!!」
「うぉぉぉぉーッ!!!」
「人間をなめるなぁぁぁーッ!!」

二人の従士の活躍により、全員の士気が上がる。
俺たちは、全員が、全力を振り絞って立ち向かった!

05人間をなめるな

「グアッ!?」

ミルムルニルの翼に、雷の精霊が放ったライトニングボルトが直撃した!
翼の痛みが限界に来たのか、ミルムルニルは体勢を崩し、そのまま落下する!

ズドォォォォッ!!!!

「うおっ!?」
「やった! あのトカゲ野郎、落ちやがった!!」
「見たか! これがノルドの力、人間の力だ!!!」

ついに、あの巨体を地上に引きずり降ろすことに成功した!
落下したミルムルニルを見て、衛兵たちが歓声をあげる。

「…定命の者たちよ…、そして、小さきドヴァーよ。
 よもやお前たちがここまでやろうとは…正直、お前たちを侮っていたようだ」


顔や翼から血を流すミルムルニル。 おそらく、勝敗が決するのは近い。
だがその前に、俺は先ほどから気になっていたことを、ミルムルニルに尋ねた。

「…ミルムルニル、とか言ったな。 ドラゴン!」
「ムゥ…?」
「お前は…なんで、俺たちに攻撃をしかけた? 目的はなんだ!?」

周囲の全員が「何を言ってる?」という表情をした。
そりゃそうだ。 ドラゴンに論戦をしかけるなど、誰が想像できようか。
だが俺は、構わず言葉を続けた。

「俺たち人間は、必要のない争いはしない。 もちろん、そうではないやつらもいるが…。
 でも、少なくともここにいる者たちは、お前との戦いを望んでいるわけじゃない。
 俺たちとお前とが争う理由はなんだ!?
 なぜお前は、俺たちと戦う!?」

ミルムルニルはその大きな瞳で俺を見ていた。 俺の言葉に、しっかりと耳を傾けていたのだ。
ただの獣なら、こんなことをしているうちに攻撃するはずだ。
やはりドラゴンは、ただの怪物なんかじゃなかった!

そして、ミルムルニルはその大きな口から、ゆっくりと言葉を返してきた。

「…我らドヴァーは、最強の種族を自負する者たちだ。
 故に、挑まれた戦いからは決して逃げない。
 ここへ来たのは、同胞の気配を感じ取ったからだが、そこでお前たちから挑戦を受けたのだ」


そうか…!
ドラゴンの姿に怯えた衛兵が、思わず攻撃してしまったのだろう。
ミルムルニルは、その攻撃を自身への挑戦と受け止めたのだ。
つまり、この戦いは俺たち人間からしかけた『決闘』だったわけだ。

「なるほどな。 だったら、その挑戦はただの勘違いだ。
 お前の図体に驚いた衛兵が、勢い余って矢を放っただけで、挑戦しようなんて思ってないんだよ。
 今からでも遅くない。 この辺で決闘は終わりってわけにはいかないか!?」

おそらく、これが歴史上初めての、『人間とドラゴンとの停戦交渉』ではないだろうか。
ミルムルニルは、俺の言葉をしっかりと聞き、そして、答えた。 

「…それは出来かねる。
 一度始めた戦いは、一方が倒れるまで続けるのが我らの掟だからだ。
 特に、同胞との戦いであれば、途中で終わるなどあり得ん。
 ドヴァーの誇りにかけて、その申し出は断らせてもらおう」


06ドラゴンに論戦を

「そうか…そいつは…残念だ」

交渉は決裂した。
どうやらドラゴンというやつは、戦いにおいて極端に自尊心の高い連中らしい。
まるでノルドの戦士を見ているようだ。

それが誤解から始まった戦いであっても、彼らにとって敵に背を向けることは、何よりも恥ずべきことなのだろう。
彼らはノルドのそれと同じく、名誉に生きる戦士なのだ。

「…わかった。 最後にもう一つ教えろ!
 お前は俺たちを『小さきドヴァー』と呼んだな? そして、ここに同胞の気配がしたと言った!
 それは、どういう無意味だ!?」
「どうもこうも、そのままの意味だ。
 そこの二人は我らと同じドヴァーの血を引く者たち。 故に、我らはその存在を『小さきドヴァー』と呼んでいる。
 そして、我が感じた同胞の気配とは…お前だ。 定命の者よ」

「何だって…!?」

『小さきドヴァー』の意味はわかった。
シャウトを使える彼らは、他の人たちと少し違うと感じていたが、その秘密がミルムルニルの言う『ドヴァーの血』なのだろう。
だが、ミルムルニルが感じたドラゴンの気配が『俺』とは…どういうことだ?

「しかし…どうやら勘違いだったようだ。
 お前の気配は確かにドヴァーに似ている。 だが、少し違う。
 定命の者の中に、稀にそのようなものが現れるが…おそらく、その類であろう。
 もしくは…いや、それはあるまい」


全く意味がわからない。 俺は人間であって、ドラゴンなどではない。
一体、何だっていうんだ…?

「…さて、おしゃべりはここまでだ。 決着を付けようか…!」
「くっ…!」

謎が謎を呼ぶ、とはまさにこのことだ。
だが、今は迷っている時じゃない。
一瞬の油断が命取りになる。 今は目の前の強敵に集中しなければ…!

07人間の力、人間の強さ

「ドラゴンと話し合いをしようだなんて…本当に無茶をしますね!」
「ドラゴンと停戦交渉か…! その発想は俺にもなかったなぁ」
「すいません、シャールさん、度葉琴さん…」

ミルムルニルと対峙する俺の隣りに、シャールさんと度葉琴さんが駆け寄る。

「そうそう、俺もノルドだけど、俺は争いを避けるのも勇気だ、って思います。
 あなたの行動は、決して臆病者のすることなんかじゃないですよ!」
「そうですよ。 以前あなたが成し遂げた、ホワイトランとイーストマーチとの取引だってそうです。
 本気で人を苦しみから救うつもりが…勇気がないと、こんな無茶はできないと思います。
 私は、あなたのそういうところ、尊敬していますよ!」

二人は俺の無茶にあきれながらも、その意味に感心していた。
シャールさんは穏やかな笑顔で、度葉琴さんは優しい微笑みで、俺を励まし、勇気付けてくれた。

「むむ…! 従士様とそんなに親し気に…!
 うらやまッ…じゃなくて、少しくらいは、私も認めてあげるわ!」
「ありがとう、アイラちゃん!
 …あ、俺を警戒してたのって、そういう理由?」
「うっさい! 前見なさいよ!」

こんな状況だというのに、俺たちの間には笑顔すらあった。

目の前にいる、ドラゴンという脅威の存在。
彼らは俺たちと同じか、それ以上に誇りに生きる者たちだった。 
だが、そうだとすれば、俺たちが勝つ道理だってあるということだ。

「…なるほど、それがお前たちの強さか。 我らにはない強さだな、小さきドヴァーたちよ。
 我もまた、お前たちの強さを忘れていたようだ。
 お前たちと戦えることを光栄に思う! 強き者たちよ!」


そうだ。 俺たち人間だって、ドラゴンに負けてなんかいない!
これが人間の力、人間の強さなのだから!











決着の時が来た。

シャールさんはミルムルニルの正面に立ち、俺と度葉琴さんは左右に展開する。
後方から、アイラちゃんが雷の精霊を従え、衛兵たちと共にミルムルニルを周囲を囲んだ。

「矢を放てーッ!」
「行って! 雷の精霊っ!!」

周囲から放たれた雷撃と無数の矢が、一斉にミルムルニルの体に降り注ぐ。
雷撃は鱗を焦がし、矢は次々とミルムルニルの体に突き刺さった。
いかにドラゴンの強靭な鱗でも、雷撃で焼かれつつ、近距離から静止状態で矢を受けては、その威力を受けきることは難しいようだ。

「グォォォォォッ!?
 ヌゥゥ…この程度で、我が倒れると思うかッ!!」


ミルムルニルは大地にしっかりと脚を着き、体勢を立て直すと、大きく息を吸い込んだ。

「ファス…ルー…マールッ!!」

ドォォォォッン!!

また別のシャウトだと?
ミルムルニルが放った声が、赤い光となって周囲に広がる!
こいつは…!?

「うッ…!? か、体が…」
「う、動けない…なんだ、今のは…?」

光に触れた衛兵たちが、次々と膝を着き、倒れていく。
それまで勇敢だった衛兵たちは、全身から冷や汗を流し、身を震わせていた。

「これは…『恐怖』の魔法!? そんな効果のシャウトもあるのか!」

恐怖に捉われた衛兵たちは、全員が戦闘不能に陥った。
イリレスさんとアイラちゃんも影響を受けたのか、立ち上がってはいるが、動けないようだ。

「これで…存分に戦えるな、小さきドヴァーたち。 そしてドヴァーに似る者よ!
 さぁ…次の攻撃で決着としよう!」

「…いいだろう、受けて立つぜ! ミルムルニル!!」

俺は右手に明王を構え、左手には氷の魔法を構える。
シャールさんと度葉琴さんも、それぞれ武器を構えてミルムルニルと睨み合った。

ほんのわずかな静寂。
張り詰めた空気が周囲を包み、辺りの風が一瞬止む。
ほんの数秒の時間のはずなのに、とても長い時間に感じた。

08決着の時

パチィンッ!!

近くで燃えていた木材から、火が弾けた!
それを合図に、俺たち3人は一斉にミルムルニルに跳びかかる!

『フォス…ロ…ダーッ!!』

「ヌオォォッ!?」

シャールさんと度葉琴さんは、左右から同時に衝撃波を放った!
ブリーク・フォール墓地で見た、あのシャウトだ!

強烈な衝撃波の挟撃で、ミルムルニルの動きが止まる!!

「い・ま・だーッ!!」

動きの止まった一瞬の隙に、俺はミルムルニルの懐に飛び込んだ!

ザンッ!!

明王の一閃を受け、ミルムルニルの腹から鮮血が吹きあがる!!

「グワァアッ!!!?」

09明王の一閃

「これで…最後だッ!!!!」

ズドォォォォォォォッ!!!!!

10これで最後だッ!!!!










「グ…オォォォォオオオ…」

ミルムルニルの巨体が、ゆっくりと倒れ伏す。
最強を自負する種族が、今まさに人間の手によって倒された。

…俺たちの勝利だ!!

「み、見事だ…! 左右同時の…スゥームに…加えて、この強…烈な…氷の魔法…!
 我が鱗も…これには…耐えら…れ…なかった…ようだ…ッ!」


ミルムルニルは、腹の傷口に強烈な氷の魔法を撃ち込まれ、体の内側から氷漬けされたのだった。
いかにドラゴンといえど、鱗を剥がされた傷口に、マジカをたっぷりと注ぎ込んだ氷の魔法を撃ち込まれては、ひとたまりもない。

「すまない…ミルムルニル。 お前は手加減できる相手じゃなかったんでな…」

彼はただ、自身の誇りのために挑戦を受けただけだった。
戦いが決闘だとわかった時から、俺はミルムルニルを殺すつもりなどなかったが、その決闘に応えないことは、彼の誇りを傷つけることになると思ったのだ。

その行動には決して悪意はない。 この戦いは、ただひたすらに誇りに生きた結果であった。
そんな彼の生き様に、俺は敬意すら抱いていた。

「気に…するな。 我らドヴァーは…不死の魂を持つ…存在だ…!
 肉体が…滅んだ…程度で、ドヴァーは……な、何っ!?

「!? な、何だ!?」

11勝利

ゴォォォォォォォォォォ…

言葉の壁で感じた風。
いや、これはあの時感じた風より、ずっと強く…そして、凶暴だ。

「こ…これは…? まさか、お前は…ッ!?」

ほんの少しだが、俺はドラゴンとわかり合えたと思っていた。

「お、おい! ミルムルニル! これは何だ!?」

だが現実は、そんなことすら許してはくれなかった。

「俺は…一体、何者なんだッ!!?」

運命は…再び俺を弄び始めた。

「グォォッ!? ド、ドヴァーキン!? や、止めろォッ!!!?」
「ミルムルニル!? うわッ!!?」


12風

ゴォォォォォォォォォォッ!!!!











何が起こったのか。

突然、言葉の壁で感じたあの『風』がミルムルニルの体から吹いたかと思うと、その風が俺の中へと入っていったのだ。
巻き起こる風の中、ミルムルニルの体は燃え上がるように消えていき、風が止んだ頃には骨だけになっていた。

「い、今のはなんだ!?」
「ドラゴンの…力を、吸収したのか? お前は、一体…?」

恐怖のシャウトの影響から解放され、衛兵たちが集まってきた。
口々に俺の身に起きた現象を不思議がっている。
どうやらさっきの風は、言葉の壁の時と違って他のみんなにも認識できていたようだ。

「信じられない…!
 お前は…伝説の『ドラゴンボーン』だ…!!」


「『ドラゴンボーン』!?」

13ドラゴンボーン

衛兵の一人が口にした、『ドラゴンボーン』という言葉。
それが一体何なのか。
そして、俺にとってその意味が、本来のそれよりも遥かに重いものであることに、この時はまだ気が付かなかった。














次回予告
第24話 叙任! ホワイトランの従士と従者。

14次回予告:叙任!
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テーマ:Skyrim - ジャンル:ゲーム

  1. 2016/08/26(金) 03:21:49|
  2. スカイリムRP シン
  3. | コメント:4
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コメント

あとがき

シンくん、初のドラゴン戦!
『決闘』を制したのは、シンくん一行でした!

ミルムルニルがいつもよりおしゃべりになっていますが、これは、ドラゴンは『命がけの論戦をする』という生き物なのだから、もっとしゃべってもいいのでは? という想いから、このようにしました。
結果的に、その雄弁さがドラゴンの強さ、偉大さを表すのに一役買って、ミルムルニルが強そうに見えたので、良い試みだったかと思います^^

そんなドラゴンと、弁舌で勝負しようとするシンくん。
ある意味、これこそ正しいドラゴン戦かも知れません。
交渉は決裂してしまいましたが、ただ戦闘するだけが『戦うこと』ではない、という表現はできたかと^^
シンくんは、これからも賢く戦っていきます。
そう、たとえ相手がドラゴンであっても!

そして目覚める竜の魂。
シンくんがついに、ドラゴンボーンとして覚醒しました。
もっとも、彼は本来のドラゴンボーンとはちょっと違います。
彼にとってドラゴンボーンであることは、本来のドラゴンボーンが持つ意味とはまた別の意味を持っています。

それは、彼が背負った運命、そして忘れられた真実。
今まさに、はぐれ魔術師の本当の冒険が始まります。
  1. 2016/08/26(金) 03:26:36 |
  2. URL |
  3. シン #JalddpaA
  4. [ 編集 ]

お疲れ様でした。
よ、ようやくドラゴンボーン覚醒ですね、長かった(; ^ω^)

ここから加速度的に物事が進み、skyrimにおける全ての存在が否応無く巻き込まれていくので
なんとかしのいでね。


ドラゴンとの弁舌ですが、これも古くからあるテーマですよね
「ホビットの冒険」のスマウグとのなぞなぞ合戦をはじめ、ドラゴンや龍との対話は
いつもハラハラドキドキ、もしくは感心させられる場面であります。

今回もその例にもれず、なかなかに面白い解釈とRPでした
それでは、"Shadow hide you."
  1. 2016/08/27(土) 11:44:15 |
  2. URL |
  3. 隠密100の放浪者 #dvQckJnQ
  4. [ 編集 ]

Re: 隠密100の放浪者 さん

いやはや、本来のスカイリムにおける最初の一歩を、1年かけて歩むという…A;´Д`)``

実は、最初はメインクエストを進めずにドーンガードのお話しに流れようと思っていました。
ところが、うっかりヘルゲンに近づいてアルドゥインと遭遇してしまったために、メインクエストに関わることに…。
結果、ドーンガードにおけるハルコン卿の陰謀と、メインクエストにおけるアルドゥインとの戦いが一度に発生するという大変な状況になってしましましたwヾ(´ω`;=;´ω`)ノ

今回の目玉、『ドラゴンとの論戦』は、どうしてもやってみたかった場面でした。
私は映画「ドラゴンハート」小説「ラベンダー・ドラゴン」などにやや影響を受けており、ドラゴンを単なる怪物としてではなく、一人の人物として捉える傾向があります。
このRPでも、彼らをただの敵キャラにするにはもったいないと思い、ドラゴンに関しては出来る限りキャラクター性を膨らませていこうと思っています^^

この後、例によってシンくんは7千階段を上る行脚をすることになるわけですが、それらも各クエストや冒険と連動して進むことになるので、これからのシナリオ構成は本当に難しくなりそうです。
吸血鬼との戦いにドラゴンとの関わりが加わって、これからますますカオスになっていく当RP。
今後ともよろしくお願いします!(o*_ _)o

が、頑張って書くぞ~、オ・・・オォー(´・∀・ lll)ノ゙
  1. 2016/08/28(日) 16:24:27 |
  2. URL |
  3. シン #JalddpaA
  4. [ 編集 ]

はじめまして。
楽しみに読ませていただいてます。
1年も続いているのって、純粋にすごいですね(*≧∪≦)ノ
  1. 2016/10/14(金) 20:02:13 |
  2. URL |
  3. ゆう&もきゅ #-
  4. [ 編集 ]

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